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盛岡家庭裁判所 昭和36年(家)869号 審判 1961年11月28日

申立人 橘イト

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立の要旨は、申立人の戸籍上の名は「イト」であるが、それを知つているのは実方とその近所ぐらいのもので五年程前から裕子名を使用し、現住所では戸籍上の名は通用しない程である。それは嫁に行つていくばくもないことにもよるが、手紙はもちろん妊婦手帳など公に関するものも「裕子」名を使用しており戸籍上の名では社会生活上支障を来しているので申立人の名「イト」を「裕子」と改名することを許可する旨の審判を求めるというにある。

よつて案ずるに人の名は個人の識別をする上において重要なものであるから正当の事由あるときでなければこれを変更することを許されないものであるところ、当裁判所の調査したところによると申立人は昭和三十三年頃盛岡市大通り喫茶店深草に勤務していた頃から通称「裕子」を使用し現在の夫と婚姻後もそれをそのまま使つていることが認められるのであるが、喫茶店等に勤務する女性が通称を使用していることすこぶる多いのは当裁判所に顕著な事実であつて戸籍上の名と通称を異にしていてもこれがためその生活上著しい支障があるものとは考えられないし、申立人が結婚してそのまま通称を使用していたとしても末だ日も浅く、現に実方及びその附近においては申立人を「イト」と呼んでいる人が多いのであるから未だ名を変更しなければ社会生活上著しく支障を来すものとは認められないし、その他「イト」という名は決して珍奇であるとか悪い名であるとはいわれないのである。

してみれば本件申立は名を変更する正当な事由があるものとは認められないのでこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 大塚淳)

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